【読書】ラザルス 世界最強の北朝鮮ハッカー・グループ

www.soshisha.com

 

独裁者が支配し、閉鎖的で貧困が多く、弾道ミサイルを打ち上げ日本上空を飛ばす勝手きわまりない国、北朝鮮
経済は大して発達しておらず、IT面でも後れを取っているイメージだ。
本書のタイトルを見て「本当なの?」と疑う人も多いだろう。
「あの北朝鮮に、世界最強のハッカー・グループがいるのか?」と。

 

そんな人はぜひ読んでみてほしい。
確かに世界最強のハッカー・グループがいてもおかしくないと思えるようになるはずだ。
その原動力は、国の資金調達のため。国の優秀な能力をハッキングに集中している。
この国は、ずっと昔から犯罪に手を染めつつお金をつくり出している。
つくり出すというか、奪い取っているという方が正しい。
ハッキングの腕を上げ、お金を奪うことが相互に関係している。
新しい技術を得る → 犯罪を犯す → お金を奪う → 新しい技術を得る のループだ。

 

筆者は、お金を奪られること以上の問題があると警鐘を鳴らしている。

それでも、北朝鮮の犯行とされるハッキングで流失した暗号資産の総額は尋常ではない。流出した時点の価値で合算すると、総額一三億ドルという目を剥くような金額に達する。
(中略)
だが、ここでもっとも重要なのはかならずしも総額ではない。暗号資産を狙った襲撃からわかるのは、北朝鮮ハッカーは新技術を圧倒的な速度で自分のものにしているだけでなく、それを巧みに活用しながら、暗号資産に関してはつねに最先端にとどまり続けている点だ。本章で触れてきた「ブロックチェーン」「ピール・チェーン」「スワップ・サービス」について、現時点で文字通り隅から隅まで理解している者は、ごくごくかぎられた少数者にすぎない。そのような人間の何割かが、北朝鮮のような国にいるという現実は、考えてみれば興味深くもあれば、同時にきわめて憂慮すべき事態でもある。

 

犯罪によって奪われた金額は相当な額だ。
奪われた金が、ミサイル開発などに使われると思うと腹立たしい。
同時に、ミサイルを飛ばしているだけと思っていた国が、ネット上でものすごく脅威であることを知ると不安にもなる。
あの国には、特定の分野に関して飛びぬけて優秀なハッカーが、日本よりも多く存在している。

 

ネットワークの世界に国境はない。
企業として国として、あらゆる攻撃者からの攻撃を防ぐよう努力することはもちろん大事だ。
ただ、狙い撃ちで攻撃を受けると、完全に防ぐことはできない。
そのため、攻撃を受けて被害が出ることを前提に対策を打つことも大事なのだろう。

 

本書にあるような犯罪集団の実態を知り、最悪の事態を想定し備えることが大切だ。

 

【読書】なぜ、この芸人は売れ続けるのか? 一流芸人25組の知られざる生き様

www.makino-g.jp

 

西川きよし上沼恵美子ダウンタウン明石家さんまなど、誰もが知る芸人と筆者とのエピソードが紹介されている。
テレビ、ラジオ、雑誌などだけでは見えない、筆者だからこそ知りえた芸人の一面というのはおもしろい。

 

筆者はデイリースポーツに入社し芸能担当となり、多くの芸能人の取材を行っている。
現在は、同じく芸能記者として活躍する井上公造氏が代表を務める会社に席を置く。
井上氏を師匠と仰ぎ、多くの芸能人との友好関係を築いている。

 

そんな筆者が、多くの芸能人を見てきて辿り着いた人としての在り方が書かれてあった。

米朝さんにインタビューをしてから20年が経ちました。
そこから記者としてのキャリアを積み、あらゆる人に話をうかがって、心底思います。

いい人が最強。

言葉こそ違えど、オール巨人さんも、藤山寛美さんも、あらゆる部門のトップランナーが異口同音におっしゃっています。
人が人を選ぶ仕事。悪い人を選ぼうとは誰も思いません。

この本で取り上げられている芸人は次の25組、プラスExtra Episodeの1人。

 

西川きよし上沼恵美子ダウンタウンタモリ明石家さんま高田純次桂米朝ガダルカナル・タカ、千鳥、間寛平笑福亭仁鶴真栄田賢 (スリムクラブ)、あいはら (メッセンジャー)、笑福亭鶴瓶正司敏江たむらけんじ小籔千豊藤井隆吉田敬(ブラックマヨネーズ)、プラス・マイナス、ゆりやんレトリィバァ渡辺直美桂南光、みながわ (ネイビーズアフロ)、市川義一 (女と男)、井上公造 (Extra Episode)

 

ここに書かれた全員は「いい人」ということのようだ。

 

【読書】小川さゆり、宗教2世

www.shogakukan.co.jp

 

2022年7月8日、安倍晋三元首相が奈良で撃たれた事件は衝撃的だった。
事件を起こした山上容疑者は、旧統一教会への恨みを持っていた。
当時、母親が宗教にのめり込み、家庭を崩壊させたと報道されていた。

 

筆者は、山上容疑者と同じような境遇で育っている。
両親が熱心な旧統一教会の信者の家庭で暮らし、成長の過程で旧統一教会に疑問を抱き、脱退。
その後、一般の男性と結婚し、子どもを出産。
事件以降、マスクはしているがマスメディアで顔を出し、同宗教団体の内情を語っている。

 

統一教会にハマった人というのは、本来の優先度がくるってしまうのだろう。
文鮮明夫妻のことばかりを見て、家族が見えない人になってしまうのだ。
遠くへのあこがればかりを抱き、近くの現実を受け入れようとしない人になってしまうのだ。

 

このような宗教にはまった親の元で育てられる子どもというのはなんとも悲惨だ。
子は親を選べない。だからこそ、なお一層可哀想に思える。

 

宗教観について筆者は次のように綴っている。

神様を信じる人もいれば、信じない人もいる。
どの神様を信じるかも、人それぞれでしょう。
ただし、信者の家庭を苦しめてまでお金を要求するような神様は、それが本物だとしても私は信じたくありません。
信じる必要もないでしょう。

 

まさにその通りだと思う。
家族を苦しめてまで、お金を求める神様がいるとしたら私もそんな神様は信じたくない。

 

【読書】アマゾンに鉄道を作る 大成建設秘録 電気がないから幸せだった。

www.hanmoto.com

 

地図に残る仕事。大成建設
筆者は、その大成建設が請け負った南米ボリビア鉄道建設に派遣として参画。
主には通訳を担っている。

 

鉄道建設の現場であるチョチスは1000人ほどの小さな村。
そこに300人を超えるプロジェクトメンバーが住み鉄道を作った2年間、村はにぎわったようだ。
ラテンの恋愛、労働組合ストライキ、コカイン、アマゾンの食などのテーマで、現場の様子や筆者の感想が語られている。

 

小さな村は、大勢の人が押し寄せたために、今までなかった文化が作られた。
ディスコや酒場が一軒、二軒と開かれ、テレビでビデオを上映する店ができ、しまいには売春宿までできたそうだ。
その変化について筆者は次のように語っている。

このチョチスでは、肉屋、酒場、ディスコを経営した者たちが、チャンスをものにした。
他の人間たちは、いままでなかった貧富の差に気が付き、貧乏になったと感じたのである。
貧困とか裕福というのは、絶対貧困(食住がない)でない限り、周りとの比較の問題でしかない。
貨幣経済がない場所に貨幣が入ると、その変化は顕著である。

 

貧困や裕福が、周りとの比較でしかないというのはなるほどと思った。
合わせて、貨幣が取り扱われたことで、変化が顕著になったというのも興味深い。

 

文明の利器とは必ずしも人を豊かにするものではないのかもしれない。
一見貧しそうに見える生活でも、その環境が普通なら人は不便に思わないし、貧しいとも思わないのだ。
ITで生活が便利になり、おいしいものを食べ、ふかふかの布団で寝ることが必ずしも幸せとは言えないのだろう。

 

そう考えると、人はどんなに豊かになっても、上を目指す限り豊かにはならないのかもしれない。
今に満足できたら、それが豊かということかもしれない。

 

【読書】同人AV女優 貧困女子とアダルト格差

www.hanmoto.com

 

2022年6月、AV新法が成立しAV業界は大変だというニュースが流れていた。
正直何が大変なのか分からなかった。
少し気にはなったが、それ以上に気にすることもないまま通り過ぎたニュースだった。

 

あれから半年以上が経った。
新刊の中から本書を選ぶ機会があり、あの時何が起こっていて、今どういう状態なのかを把握した。
知ってみると、なるほど、たいへんだと思うことが起こっていた。
それは、今でも継続している。
そして、AV新法や技術の変化をきっかけに、AV業界自体が大きく変わろうとしているのが見えた。

 

AV業界にとってAV新法とは次のようなことらしい
①AV新法とは、不当にAVに出演させられる人を守るために作られた
②同時にまじめにAVに出ている人にとって収入減につながる法律でもある
③さらにFANZA以外のAVに関わる会社にとっても収入減につながる法律である

 

また、今AV業界全体の現状は次のようになっているようだ
①AV業界は、適性AVとそれ以外に分かれる
②それ以外には同人AVや無修正などがある
③適性AVはFANZAが7割、それ以外が3割で、FANZAが牛耳っている世界
FANZAはAV新法に反対ではない。なぜなら対応可能だから
⑤昔、AV女優は高い出演料をもらえていたが、今は安い
⑥適正AVより同人AVの方が儲かる場合も多くなっている
⑦同人AVに活躍の場を移す関係者も多く、今や適正AVと同人AVは同規模になってきている
⑧アンチFANZAの影響で、その勢いはますます加速するかも

 

あとがきにて、筆者は次のようにまとめている。

「自分で自分を撮影して、発信する同人AV女優になりましょう!」
筆者はここまで主観を述べないでいたが、最後にひと言だけこれからAV女優になりたい女性に伝えるとすると、そういうことになる。

 

強者が強くなりすぎて共存できないようになると、それに反対する勢力が力をつけ、イノベーションが生まれる。
AV業界にもそういう流れが来ているようだ。

 

 

【読書】熱くなれ 稲盛和夫 魂の瞬間

bookclub.kodansha.co.jp

2022年7月、大規模な通信障害を起こしたとしてKDDIの髙橋社長が緊急会見を行った。
この時の、自らが前面に立ち言葉を濁さず真摯に説明する髙橋社長に対して、評価する声が多かったのを覚えている。

 

本書には、その髙橋社長が2022年6月に稲盛氏とのエピソードを語ったインタビュー記事が載っている。
髙橋社長と稲盛氏の関係性を知り、あの会見の評価に妙な納得感を覚えた。
「あの会見は、イナモリイズムから生まれたものだった」
「稲盛氏の影響を受けた人だからこそ、あれだけ真摯に、自分の言葉で、世間に対してしっかりと説明できたのだ」と。

 

稲盛氏の行動や言動には「人間として正しいかどうか」が根底にある。
そこから、京セラフィロソフィーやJALフィロソフィー、経営12カ条などができている。
髙橋社長の会見には、その精神がしっかりと表れていたように思える。

 

本書では、これまでの稲盛氏の講演の内容や、関係者へのインタビューがまとめられている。
本書を読んで、改めて、稲盛氏とは人を大事にし、人間の本質で経営をしてきた人なのだなと思った。

 

「人」「心」「コンパ」などの言葉があちこちに出てくる。
特に、本書にはコンパの話が多い印象を受けた。
実際、稲盛氏はコンパを利用して、重要な人間関係を多く築いてきたのだと思う。

 

JAL再建に関して、日本航空株式会社 元取締役 副社長 藤田直志氏のインタビュー

そして6月に始まったのが、52人の役員を集めてのリーダー研修会でした。稲盛さんの講話が1時間、異なる部門のリーダーたちとのグループディスカッションが1時間、そしてコンパと呼ばれる意見共有する懇親会。これが、1ヵ月で17回も行われたんです。

 

コミュニケーションの重要ツールとして利用できたコンパも最近ではだいぶ変わってきている。
今の時代、飲み会をすると言っても、全員が参加しない飲み会が多くなった。
コロナ禍の影響で、飲み会に参加する人と参加しない人の区切りはよりはっきりしてきたように感じる。

 

このような状況を、稲盛氏は天国からどのように見ているだろう。

 

【読書】キーエンス解剖 最強企業のメカニズム

bookplus.nikkei.com

「給料の高い会社。給料は高いがさぞかし馬車馬のように働かされるのだろう」
15年ほど前、私がキーエンスを最初に知ったときの印象だ。
当時「30代で家が建ち、40代で墓が立つ」と言われていた。
この言葉から、体育会系、ブラック、成果主義のような会社をイメージしていた。

 

この本には、そんなイメージとは全く違うキーエンスの姿があった。
徹底的な合理主義によって、会社全体の力を底上げして成長している企業だった。

 

キーエンスの取り組みとして、次のことが紹介されている。
・直販(販売店を介さずに営業)
・即納(全商品で即時出荷)
・外報(商談から5分後には報告)
・粗利8割の商品開発
・情報の可視化(顧客のニーズなど)

 

特長的と言えるかもしれないが、割と当たり前のことも多い。
キーエンスが他社と違うのは、それを徹底しているのだ。
徹底してやる文化が、社内に根付いている。
その中でも「即納」についてはとても興味をひく内容だった。

 

キーエンスは「全商品で即納」をアピールしている。
在庫を抱え、客から注文が入れば、翌日には納品する。
それがどんなに高額商品であっても同じだ。
直近の利益よりも、即納が優先される方針が徹底されているそうだ。
これは、利用者にとっては非常にありがたい話だろう。
工場の機器が壊れてすぐに交換が必要なとき、「キーエンスなら大丈夫」という安心感がある。
この安心感のためであれば、多少高くてもキーエンスを選ぶ顧客も多いはずだ。

 

即納へのこだわりが、次のように紹介されていた。

あるキーエンス社員は「10万円のコストをかけてでも1万円の商品の即納を守る」と即納への執念を表現する。
ある商品の出荷が間に合わなさそうな状況になれば、「地方にある部品を社員が新幹線で取りに行き、協力工場に特急対応で生産してもらうこともある」。
それほどまでに「即納」の看板を大事にしている。

 

良いものを開発し、それを合理的に売る文化がキーエンスにはあった。
決して、体育会系でもブラック企業でも無かった。
むしろ、見習うべきところが多すぎる会社だった。